メンタルヘルスとケア~山本あき子最後の一般質問

メンタルヘルスとケア

内閣府は「社会参加を回避し、半年以上、家庭にとどまり続けている」という定義で15歳から39歳を対象に調査し、その結果、全国で約54万人がひきこもっていると推計しました。しかしこの調査では40歳以上や「自宅で育児、家事をしている場合」は除かれています。つまり主婦や家事手伝いは対象外となっているため、女性の引きこもり実態を掴み切れていません。引きこもりのきっかけや原因は様々ですが、長期化の背景には多くの場合、メンタルヘルスの不調が考えられます。

わたくしごとで恐縮ですが、昨年メンタルヘルスの不調によって自宅療養を余儀なくされた経験と反省から、メンタルケアについての誤解と課題を含め質問しました。

【さまざまなメンタル不調】

2019年2月、パニック障害を公表した歌手が、予定していた復帰を見送り治療に専念するというニュースがありました。イメージが大切なアイドルが自らパニック障害を告白し、休養と回復に努めるという事務所を含めた対応は、メンタルヘルスに対する社会意識の変化を感じます。また産後うつや介護うつといった、ある特定の状況に反応して起こる「うつ」についても当事者による手記が出版されています。産後一か月でクリニックを受診するもうつを見過ごされ、限界まで追い込まれて自殺を図ろうとするまでに悪化、産後3か月で入院、その後双極性障害を発症したかたが書かれた「脱産後うつ」という本によりますと

「産後うつは放っておくと自殺や母子心中の恐れがあります。2005年から2015年までの10年間で、妊娠中から産後一年以内に自殺した女性は東京23区だけで63人。そのうちの多くが産後うつなどの精神疾患の診断を受けていました。産後うつはホルモンの急激な減少が原因の一つですが、母乳育児をしているので薬を飲みたくない、なので医者にかかれない、そのため症状が悪化する、という悪循環に陥りがちです。さらに、母親なんだから育児が出来て当たり前、たとえ自分を犠牲にしても母は子どもを優先するべきという、いわゆる「母親神話」の重圧によってさらに追い詰められる人も少なくない。母親としての覚悟が足りない、赤ちゃんへの愛情が足りない、ほかのお母さんが出来ているのに自分はダメな母親だ、という自責の念、罪悪感がますます自分を追い詰めることになります。このように徐々に自分に対する評価が低下していってある時を境に、なにもすることができない状態へと陥っていた」とあります。

【学校におけるメンタルヘルス】

2017年度公立学校教職員人事行政調査によるとうつ病などの精神疾患で休職した公立学校の教員が5077人を超え4年ぶりに悪化したと文科省から発表されました。休職者全体の65%が精神疾患を理由としており深刻です。教育委員会では新たな体制整備が31年度から始まると答弁があり、たとえば先生方のストレス分析や共有なども行うとのことでした。教諭の労働環境は過労死レベルとされるほど厳しいものですが、業務軽減の方向で都も国も動いているので狛江市でも改善が期待できます。

また国立成育医療研究センターが発行しているリーフレットによりますと、約30年前まで子どもはうつ病を経験することは無いと考えられていましたが最近の欧米疫学調査では子どもの約5%から8%にうつがみられ年齢が高くなるにつれて頻度が増加していることが分かってきたそうです。小児うつは2%、思春期で8%、18歳までで20%。大人のうつと違うのは、しばしば「いらいら」が中心になる事、周囲に無関心にならず、むしろ過敏になる、過眠や過食を伴う、発達障害との併存、自殺行為の多さなどが挙げられています。専門家でないと、いらいらからうつを疑うことは難しいと思いますし、子どもに対しては服薬を抑えた治療も可能という事ですので、早期の対応を要望しました。

【病気を受け入れられない】

私が最初にクリニックを受診したのは2017年の10月でしたが、その時は病気を受け入れられませんでした。仕事を休む事など考えられませんでしたし、娘もまだ思春期であり、通学路に私の看板が出ているような状態で、母親である私がメンタル不調を公表するなど、とても出来ないと判断してしまいました。以前より文字が読みづらいと感じる、味覚が失われるなどの変化がありましたが短期的なものと楽観していました。当時しきりに自殺対策についての講座を受けるなどして一般質問もしたのですが、仕事の一環だと捉えていました。朝起きられない事もなく、まだ笑えるから大丈夫だと思い、仕事に没頭して治療を中断してしまいました。この自己判断の甘さが結果として悪化を招きました。振り返るとこのときはまだ適応障害、あるいは過剰適応といった状態だったのかもしれません。

適応障害という言葉を初めて聞いたのは、2004年6月雅子様についての宮内庁発表時という方が多いのではないかと思います。環境に適応できない、あるいはしすぎる適応障害は、パニック障害と同じくメンタルヘルス不調のひとつで女性に多いとされます。問題となる原因を取り除けば症状が落ち着くといった特徴があるので、原因から離れたり環境調整すれば改善すると分かっているのですが、現実としては難しく私は孤立を深め悪化させてしましました。

【受診のハードルの高さ】

日本において、うつ病は10人にひとりの割合で罹患するといわれ、これは糖尿病よりポピュラーな病気です。厚生労働省の患者調査によればうつ病による受診者数は2014年には111万人超え、1996年からの18年間で2、6倍増加しています。これだけ増えているのに、メンタルヘルス不調に対する偏見や受診に対する抵抗感、ハードルの高さはいまだ現存していると感じます。うつの患者数は女性の方が多いのですが、それは男性が女性に比べて受診しないからだとも言われ、うつによる男性の自殺が女性の2倍であることからも、受診への抵抗の高さがうかがえます。狛江市ではゲートキーパー研修やご近所ドクターに聞く「うつの話」というテーマの講演会を実施しています。認知症とうつの関係や8050問題、性的マイノリティの生きづらさなど、市政運営の課題の多くに心の健康が深く関わっていることから今後とも受診のハードルを下げるような周知啓発を要望します。

【社会から見えづらいわたしたち】

最近では一般社団法人主催の「引きこもり女子会」が開催され話題となっています。自治体の子育て支援の場にも出ていきにくい、引きこもりを自認するママたちは、今まで社会から見えづらかった内閣府調査の対象外である人たちです。引きこもり状態にあると自認する女性たちは、高齢化・長期化しているとの独自調査もあります。

今まで、声をあげにくい人たち、社会から見えづらい人たち、いないとされる人たちについて考えてきましたが、病気や弱さを公表して生きづらいまちなら、それは健常な人にとっても生きづらいまちにちがいない、そのことを当事者として強く感じました。

(山本あき子)